金融庁ニュース
金融庁は五味広文前長官からバトンを受けた佐藤隆文長官による新体制に移った。新長官は監督局長を務めた3年間に金融機関に対し500件超の行政処分を下し、“金融処分庁”と揶揄(やゆ)された「厳格路線」を主導し恐れられてきた。ところが、就任後は一転して対話重視の「ソフト路線」を打ち出した。業界と当局の意思疎通の欠如による弊害も指摘されるなか、新長官の“路線変更”に注目が集まっている。(金融取材班)
≪“官僚の中の官僚”≫
「業界の自助努力を尊重したい」
今月10日の就任会見で、佐藤新長官はこう切り出し、業界関係者を驚かせた。
異例の3年間に及んだ五味長官・佐藤監督局長のコンビは、金融機関に対する業務停止や業務改善命令などの行政処分を頻発させた。04事務年度(04年7月~05年6月)は約90件、ピークの05事務年度(05年7月~06年6月)は約280件、06事務年度(06年7月~07年6月)も約170件に上っている。
「“官僚の中の官僚”でルールに厳しい」(大手銀行幹部)
「友好的な雰囲気でのコミュニケーションが難しい」(大手生保幹部)
“強面(こわもて)”というのが、厳格路線の主導的役割を担った新長官に対する金融業界の一致した評価だ。
五味時代の金融庁は、「消費者保護」を前面に掲げ、金融機関に対する検査・監督体制を強化してきた。行政処分の頻発も、生損保業界の保険金不払い問題や消費者金融、外為証拠金取引(FX)業者をめぐる不祥事が相次ぐなか、「消費者軽視」の業界体質を「根本からたたき直す」(金融庁関係者)という狙いがあった。
こうした厳格路線は、9月に予定されている消費者保護を包括的に盛り込んだ「金融商品取引法(金商法)」の施行で、総仕上げの段階に入る。
だが、一方では業界と当局の溝が深まったことによる弊害を指摘する声は多い。大手銀行幹部は「情報交換がスムーズに行かず、金融庁が何を考えているのかわからない。商品開発や出店計画にも影響が出た」と打ち明ける。
外資系金融機関との競争激化に加え、世界規模の市場間競争も激しさを増しており、日本にとって金融機関や金融市場の国際競争力の強化は待ったなしの課題となっている。金融庁も年内に地盤沈下が進む東京市場の魅力向上や金融制度の改革を盛り込んだ「金融・資本市場競争力強化プラン」をまとめる方針だ。
「米国がアメリカン・スタンダード(基準)をグローバル・スタンダードにし、世界の金融市場を席巻したように、金融制度は国益の問題。当局と業界が一体となって取り取り組むことが不可欠」(民間エコノミスト)
消費者保護を徹底させるため業界と距離を置いた厳格路線から、意思疎通や情報交換を重視する「ソフト路線」への転換は必然的な流れともいえる。
「双方の対話がいろいろな面で大変大事なことだと思う」
全国銀行協会の奥正之会長(三井住友銀行頭取)も24日の定例会見で、新長官の路線変更を歓迎する意向を表明した。
≪疑心暗鬼の声も≫
ただ、業界では「どんな考えを持って施策を打ってくるかはぜひ知りたい」(大手生保)と期待を寄せる一方で、「金商法の施行で監督姿勢が一段と厳しくなるのでは」(大手銀)と、疑心暗鬼の声も根強い。
当局と業界の方向性が一致し、金融市場の国際競争力強化など将来を見据えた施策をスピーディーに打ち出せるのか。佐藤新長官の手腕が試されている。
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【一問一答】
■未来志向で金融業界と対話
佐藤隆文金融庁長官は26日、フジサンケイビジネスアイとのインタビューに応じ、金融市場の国際競争力の強化を図る必要性を強調。金融業界との対話を重視する姿勢を示した。一問一答は次の通り。
--重要テーマに「金融規制の質的向上」を挙げているが
「日本の金融部門を取りまく環境が変化する一方で、消費者保護のための環境は整備されてきた。今後は当局が指示するのではなく、各金融機関の自主性、創意工夫が求められており、自助努力による活力を引き出せるような規制や監督手法が重要になっている。日本市場の国際競争力を強化する上でも、市場の活力を大きく左右する規制の質的向上が必要だ」
--競争力強化にどう対応するのか
「米、英などのものまねでは競争力強化につながらない。1500兆円を超える個人金融資産の存在や安定した治安など日本の魅力を生かした市場を構築したい。アジア全体の資金調達や資産運用にかかわっていくことも重要だ。人材面でも法務や会計など英語でやり取りできるプロが量的に少ない。国内外の金融機関で働く優秀な人材が日本で活力を発揮できることが、日本の消費者の利便性につながると考えている」
--金融機関との対話重視を打ち出しているが
「落ち度があったが、今後改革を進めたいという経営者には、改革に消極的な抵抗勢力を説得するために金融庁の存在を活用してもらいたい。また、各社の自助努力を進めるためにも、個別問題にとどまらず、市場全体がどういう方向に向かうのか、あるいは新しい金融商品をどう扱うかなど、未来志向のテーマを取り上げ、対話の中身を濃くしていきたい」
--生損保の保険金不払い再発防止への対応は
「行政処分を通じ、経営管理体制や社内のチェック機能、顧客志向の発想に基づく業務運営などの体制はかなり整備されてきた。今後、重要なのは、官民で苦労して作り上げてきた顧客志向のビジネスモデルを、企業の自助努力に基づき持続的に発展させることができるかどうかだ。ただ、それで安住してもらっても困る。サービスの質の向上のため、各社が競い合ってほしい」
--地域金融機関の基盤強化にはどう取り組むか
「金融庁が経営統合を働きかけることは決してないが、地域金融機関を取り巻く環境は決して楽なものではないと認識している。各経営者は将来を見すえた経営戦略を早め早めに進めてほしい」
(引用:Fuji Sankei Business i)